福岡県の放射線監視体制
福岡県では、昭和40年代から環境中の放射線を測るモニタリングポスト(解説1)を県内に設置し、環境放射線の推移を調査してきました。さらに、万が一原子力災害が発生した場合、避難する時期や場所などを適切に判断するために、モニタリングを強化することになっています。これを緊急時モニタリングといいます。
このたび当研究所に、緊急時のモニタリング強化に対応できるように放射線の測定装置を備えた環境放射線モニタリングカーが配備されましたので紹介します。
福岡県の放射線監視体制(ふくおか放射線・放射能情報サイトから転載)
環境放射線モニタリングカーとは
環境放射線モニタリングカーは、測定装置を搭載した車両で、走行した地点の環境放射線をいち早く把握できます。
環境放射線モニタリングカーの外観。一般車両を改造して造られています。
測定データの一例。走行した地点の環境放射線をいち早く把握できます。
環境放射線モニタリングカーの特長
@広範囲の放射線量率に対応
モニタリングカーは、2種類の放射線検出器を搭載しており、広い範囲の放射線量率に対応できます。 一般環境レベルの低い放射線量率ではシンチレーション検出器(解説3)を、原子力災害時の高い放射線量率ではシリコン半導体検出器(解説4)をそれぞれ用います。
車両上部のようす。この中に2つの検出器が収められています。
車両内部のようす。車両上部の検出器とつながった測定用PCでデータを確認できます。
Aテレメータ監視局とのデータ共有
測定データは位置情報とともに、衛星通信で福岡県テレメータシステム(解説5)に送られます。そのため、監視局(当研究所や福岡県庁)でも測定場所と測定値が地図上に表示され、すみやかに現地の状況を共有することができます。
当研究所でも測定データを共有できます。
B測定装置への電源供給
緊急時には、現場の状況に応じてさまざまな測定装置を使うことが予想されます。環境放射線モニタリングカーには大容量のバッテリーが搭載されているため、電源のない場所でも測定装置に電気を供給することができます。また、現場で安全に測定装置を荷下ろしするためのリフトも備えられています。
車両から測定装置に電気を供給することができます。
車両後部のようす。測定装置を荷下ろしするためのリフトが備えられています。
今後の活用方法
原子力災害等の不測の事態に備えるためには、平常時から放射線の状況を把握しておくことが重要です。そのため、平常時でも定期的に原子力発電所周辺地域の走行モニタリングを行います。
緊急時には平常時よりも強化した放射線モニタリングを行います。例えば、モニタリングポストが設置されていない地点での測定、それらを結ぶ走行路における走行モニタリング、放射線量率が高い場所(ホットスポット)での重点的な測定などがあります。
また、いざというときに円滑に測定ができるよう、原子力防災訓練のときにも走行モニタリング訓練を実施する予定です。
今後も福岡県保健環境研究所では、環境放射線モニタリングカーに加え、いろいろな放射線・放射能測定器を⽤いて普段から環境中の放射線の強さを把握し、緊急時に備えるほか、放射線に関する研究などを⾏っていきます。
【用語解説】
1) モニタリングポスト:環境中の空間放射線量を測定、監視するための無人測定装置のこと。
2) 放射線量率:空間放射線量率ともいう。対象とする空間の単位時間あたりの放射線量を空間放射線量率という。
3) シンチレーション検出器:放射線があたると蛍光を発する物質を利用した放射線の検出器のこと。環境放射線(主にガンマ線)用には、NaI(Tl)(タリウム活性化ヨウ化ナトリウム)などがある。
4) シリコン半導体検出器:シリコンの半導体を検出器に利用したもので、感度はシンチレーション検出器ほど高くないが、緊急時の高線量率でも計測できる。
5) テレメータシステム:測定局で測定したデータを、電話回線等を使い自動的に監視局に集める装置のこと。福岡県では、モニタリングポストで測定した放射線量率等を1分ごとに監視局(福岡県保健環境研究所と福岡県庁)に集め、環境放射線の常時監視を行っている。