Fukuoka Institute of Health and Environmental Sciences
福岡県保健環境研究所
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オキシダントの環境基準は、「1時間値が0.06 ppm以下であること」ですが、高濃度になると急性の健康影響があるため、環境基準とは別に以下のような注意報・警報が定められています。
基準測定点において、濃度が 0.12 ppm 以上となり、気象条件から見て、その状態が継続すると認められるとき。
基準測定点において、濃度が 0.24 ppm 以上となり、気象条件から見て、その状態が継続すると認められるとき。
基準測定点において、濃度が 0.40 ppm 以上であり、気象条件から見て、その状態が継続すると認められるとき。
※福岡県では、平成2年、8年、19〜21年、24年に注意報を発令しています。警報や重大警報を発令したことはありません。
注意報が発令されたときは、外出や自動車の使用を控え、野外での激しい運動はしないようにお願いします。
ppm(ぴーぴーえむ)
:100万分の1を表す単位(ちなみに%は100分の1を表す)。ppb(ぴーぴーびー)という単位もよくでてくるが、こちらは10億分の1を表す。すなわち、1ppm = 1000 ppb
オキシダントとは、大気中の酸化性物質の総称です。大気中の二酸化窒素(NO
2
)や炭化水素から光化学反応によってできるので、光化学オキシダント(Ox)といいます。主な成分はオゾン(O
3
)です。オゾンは反応しやすい物質で、反応の相手に酸素原子(O)をわたして、自身は酸素(O
2
)に変化します。
大気中のオキシダントには、日中、光化学反応によってできるものや、上空のオゾン層から落ち込んでくるものがあります。光化学反応によってできるオゾンには、国内で地域的に発生するものと大陸で発生した二酸化窒素や炭化水素が日本に流れてくる途中でできるものがあります。
酸化性物質(さんかせいぶっしつ)
:反応の相手に酸素を与える物質のこと。例えば、窒素に酸素を与えて、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO
2
)にする物質をいう。
二酸化窒素(にさんかちっそ)
:空気中の窒素(N
2
)やいろいろな物質に含まれる窒素(N)が燃焼することによってできる物質。化学式はNO
2
。
炭化水素(たんかすいそ)
:炭素(C)と水素(H)の化合物の総称。
光化学反応(こうかがくはんのう)
:光のエネルギーで進む反応のこと。
オゾン
:酸素原子が3個くっついた化合物で、化学式はO
3
。
オゾン層(おぞんそう)
:上空約10〜50 kmの成層圏(せいそうけん)にあるオゾン濃度が特に高い層(上空約15〜30 km)のこと。
2. 大気中のオキシダントの濃度
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大気中のオキシダント濃度は、数 ppbから百数十 ppb程度の範囲で変化しています。
国内で地域的に発生した二酸化窒素や炭化水素から光化学反応によってできるオキシダントの濃度は昼間に高くなり、夜はほとんどゼロになりますが、大陸から日本に流れてくる途中でできるオキシダントは、オキシダントとして流れてきますので、夜もゼロにはなりません。
オキシダントに限らず、大気中の汚染物質の濃度は、発生源と気象要件に影響を受けます。
発生源から排出される大気汚染物質やその原因物質が多ければ、大気中の汚染物質の濃度は高くなります。
また、大気汚染物質が広がる空間を箱と考えると、箱が小さければ、大気汚染物質の濃度は高くなります。逆に、箱が大きければ、大気汚染物質の濃度は低くなります。箱の大きさは、主に地面が暖められることによって生じる上昇気流によって決まりますから、1日の中ではお昼頃に大きくなり、夜は小さくなります。朝方に逆転層ができると、上からふたをされたようになり、特に小さくなります。1年の中では、夏に大きくなり、冬に小さくなります。
さらに、風が弱いと、大気汚染物質が拡がりにくくなり、濃度が高くなります。逆に風が強いと、大気汚染物質の濃度は低くなります。
光化学オキシダントの場合、春や秋の移動性高気圧が日本付近を通過する頃は、風の弱い晴天が続くため、濃度が高くなります。大陸からの流れ込みも秋から翌春に多く観測されます。ただし、冬に多い西高東低の気圧配置のときは、あまり天気がよくない上、風も強いので、濃度は高くなりません。上空のオゾン層からのオゾンの落ち込みも、春に多く起こります。
発生源(はっせいげん)
:大気汚染物質やその原因物質を排出する元のこと。例えば、工場排ガスや自動車排ガスなど。
逆転層(ぎゃくてんそう)
:下の空気より、上の空気の温度が高い層のこと。したがって下の空気は上に行くことができない。
移動性高気圧(いどうせいこうきあつ)
:移動性高気圧におおわれると、風の弱い(等圧線の間隔が広い)晴天が続くため、光化学オキシダントの濃度は高くなりやすい。
西高東低の気圧配置(せいこうとうていのきあつはいち)
:大陸側に高気圧、日本側に低気圧があるため、日本は天気が悪くなる。また、等圧線が南北に立って間隔が狭くなるため、強い西風が吹く。
大気環境
4. 環境基準と注意報・警報
光化学オキシダントについて
大気汚染物質の健康影響としては、急性のものと慢性のものに大きく分けられますが、オキシダントの場合は主に急性で、オゾンの酸化性によるものです。オゾンによる急性症状としては、目がチカチカして涙が出るとか、鼻やのどの粘膜を刺激することによるのどの痛みや咳などがあります。1940年代にアメリカの西海岸で多くの健康被害をもたらした光化学スモッグの原因が自動車排ガスからできた光化学オキシダントであったことから、光化学オキシダントが原因のスモッグをロサンゼルス型スモッグといいます。日本では、1970年7月に東京都杉並区の高校生が目やのどの痛みや呼吸ができないことを訴えて病院に運ばれた事件が、日本において光化学オキシダントの被害を明らかにしてものとして有名です。
植物は、高濃度のオゾンにさらされると、葉の葉緑素が破壊されて、葉に白や黄色の斑(ふ)が生じ、生育が阻害されます。また、それほど高濃度でなくても、長期間オゾンにさらされると、光合成速度が低下することが知られています。
このように健康影響や植物被害をもたらすオゾンですが、一方ではなくてはならない物質です。成層圏にあるオゾン層は、浴びすぎると有害な紫外線を吸収する働きがあります。
紫外線(しがいせん)
:可視光線より波長の短い光。光のエネルギーは波長が短いほど大きい。骨や歯の形成に不可欠なビタミンDの合成には紫外線が必要だが、浴びすぎるとしみ・そばかすや皮膚ガンの原因となる。
3. 健康影響と植物被害
福岡県の大気環境状況 解説のページ
http://www.taiki.pref.fukuoka.lg.jp/homepage/Index/kaisetsu.htm
光化学オキシダント関連情報提供ホームページ(環境省・気象庁)
http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/oxidant/index.html
増え続ける対流圏オゾンの脅威(アジア大気汚染研究センター)
https://www.acap.asia/wp-content/uploads/2019/02/ozone_simple.pdf
5. もっと知りたい方へ(リンク)
1. 光化学オキシダントとは